Prologue
本章では、本書の目的である、日本のすべての農家が収量を上げるための最も効果のある資材を紹介する。それが、フミン酸、フルボ酸を含む資材である。その開発者であるケーツーコミュニケーションズの小嶋社長に特別寄稿をお願いした。内容については、腐植分野の権威で弘前大学名誉教授である青山先生にわざわざ監修を依頼してくださり、校閲していただいている。監修してくださった青山正和先生に、私からも御礼を申し上げます。
私はフミン酸、フルボ酸は、植物だけでなく、すべての生命に関与していることを、インドで 3000 年も前から民衆に伝わるアーユルヴェーダの薬「シラジット(フミン酸、フルボ酸を約 60% 含有)」との共通点で見いだしている。インドでは、シラジットでがんが治癒した事例も報告されている。古代バビロン、メソポタミア、ローマ帝国では温泉療法での使用もある。
現代では、両親媒性(分子に疎水性基と親水性基を持つ)で超分子構造を形成する天然のフミン酸の抗酸化、抗炎症、糖吸収阻害などが解明されつつある。重金属など有害物質の吸収抑制もその一例である。一方、電子の受容体や供与体としても働く天然のフルボ酸は、有用ミネラルなど、栄養素の吸収を促進する働きを持つことが明らかになってきた。
世界では、植物の最終分解物であるフミン酸、フルボ酸の活用範囲が伸展、植物だけではなく、人や動物、環境改善へと研究が進んでいる。欧州医薬品庁(EMA)の動物用医薬品評価委員会によると、安全なフミン酸、フルボ酸は、抗炎症、抗酸化、抗ウイルスなどの特性をもつ分子であり、ウマ、ブタ、トリの下痢、消化不良、急性中毒の治療を目的とした、500 ~ 2000mg /kgの経口投与が可能で、腸の粘膜に対して保護効果を発揮し、消炎性、吸着性、抗毒性などを有することを示している(こうした論文の翻訳精読を白川仁子様が、勉強会で 5 回も私たちに説明してくださった。記して御礼を申し上げます)。
― 次代の子供たちにより良い環境をひきつぐために―ワンヘルスを紡ぐ腐植物質 「フミン酸、フルボ酸」
小嶋康詞
監修:青山正和
はじめに

本書は、植物栄養学の世界的権威である渡辺和彦博士(農学)が篤農家を一軒一軒訪ね、「いかにして美味しく健康的な作物を育て上げ、収益を上げているか」を科学的な解説を加え記事にしてきたものをまとめあげた一冊だ。当然のことながら、生産者にとっては表に出したくないようなコツを科学的な裏付けをして編纂した、言わば秘伝集ともいえる。
渡辺先生が篤農家を巡る中、先生の植物栄養学の範疇に入らない腐植物質(フミン酸、フルボ酸)を上手に活用して大きな収益を上げている生産者と出会うことになる。もちろん先生はフミン酸(腐植酸)もフルボ酸も認識はされていたものの、栄養素ではないとの理由から積極的な研究は行われていなかったようだ。先生と私との出会いは、そんな先生が「でも、気になる」というタイミングで、上杉登氏(元全国肥料商連合会会長)にご紹介いただいたのがきっかけだった。
その後、先生のご自宅に 2 回ほどご招待いただき、その機会を利用してフミン酸、フルボ酸のバイオスティミュラント作用に関する勉強会を開くこととなった。勉強会では、植物への働きだけではなく、人に対する美容や健康効果、海洋生物や環境浄化への活用例、また、多分野にわたり世界中から相次いで発表される論文なども紹介させていただくようになった。
そんな折、渡辺先生から「あなたが開発したフミン酸、フルボ酸を使って実績を上げている生産者を取材したい」との依頼があり、『農耕と園藝』に連載された記事が第 2 章にまとめられている。
秘伝集の末席に加われることを喜んでいたところに、渡辺先生から「ワンヘルスをテーマに、フミン酸、フルボ酸のことを書いてほしい!共著で行こう!」と恐れ多いオファーをいただき、恐縮したが、末筆ながらも執筆させていただくことになった。
なお、正しい情報を掲載する上で、元日本腐植物質学会会長であり、弘前大学名誉教授の青山正和博士(農学)に監修をお願いした。皆様のお役に立てたならば幸甚である。
本論に入る前に
腐植物質の説明を始めると、決まって「フミン酸って何?」「フルボ酸は聞いたことあるけどフミン酸なんて聞いたことがない」と質問がよく返ってくる。フミン酸もフルボ酸も腐植物質の仲間で、自然の中では毎日森の中で生成されている、と答えると「フルボ酸は一億年もかかってできるヒューミックシェール(亜炭)からしかできないと聞いている」と、かなりの確率で反論されてきた。間違った情報、特にインターネット上にはさまざまな情報が氾濫している。
そこで本書では、これまで多くの方から受けたご質問や疑問点に焦点をあて、できるだけわかりやすく正しい情報を伝える。なお、フミン酸やフルボ酸はその多機能さゆえ、さまざまな国から多分野にわたる論文が次々と発表されている。それらの論文を整理すると、フミン酸やフルボ酸があらゆる生物(命)に活性を与え、環境にも不可欠な物質群、すなわちワンヘルスを紡ぐ重要な物質群であるということがわかってきた。加えて、渡辺先生からのご指示もあり、私のパートのタイトルは「ワンヘルスを紡ぐ腐植物質」としたい。
次代の子供たちにより良い環境を引き継ぐために
温暖化を超え、地球はすでに沸騰化の時代に突入したと叫ばれている。環境汚染物質が世界中にばらまかれ、地球上の全ての生命が危機的状況を呈している今、「次代の子供たちにより良い環境を引き継ぐ」ために、フミン酸、フルボ酸のさまざまな作用をフル活用してゆこう!と寄稿させていただくことにした。本章では、世界的な食糧危機を踏まえ、環境にも健康にも直結する農業を中心に、フミン酸とフルボ酸の正しい解説と活用法を紹介する。
本 論
ワンヘルス(One Health)を紡ぐ腐植物質
◆森が消える。環境破壊は汚染を生み、地球の沸騰が絶滅を拡大する
1985 年に初めて開催された世界会議で地球温暖化が大きく取り上げられてから約 40 年となる 2023 年 7 月、国連事務総長の会見によって温暖化よりもレベルの高い「地球沸騰化」時代の到来が告げられた。
気候変動は世界各地で発生する巨大台風や集中豪雨による水害、干ばつだけではなく、頻発する竜巻、高温障害や低温障害なども重なり、穀物や野菜といった農産物に深刻な影響をもたらしている。地球規模の環境問題は急激な気候変動ばかりではない。マイクロプラスチック(MPs)、原油や石油製品に由来する多環芳香族炭化水素(PAHs)、有機フッ素化合物(PFOS、PFOA など)をはじめとするさまざまな汚染物質によって土壌や海洋の汚染が広がっている。
陸上の食物連鎖における生産者である植物は、土壌からの栄養と光合成なくしては成り立たない。その大切な土壌が、化学肥料、化学農薬の投与に依存する慣行農法の普及も影響してか、枯渇化し失われ始めているのだ。
◆ワンヘルスとは
人や動物の健康と、環境の健全性は生態系の中で相互的につながり、強く影響しあっている。ワンヘルスとは、このバランスを維持するため、各分野の関係を見直した上で再築し、課題解決のため横断的に活動していくという概念だ。
しかし今日では、私たちの活動域は他の生物たちの生息域を狭めながら拡大し、種の絶滅スピードは加速の一途をたどっている。汚染と枯渇化する土壌、こうした中でも増加し続ける人類にとって、食料危機は避けては通れない問題なのだ。

◆腐植物質がワンヘルスを紡ぐ
ここに、2023 年に発表された一報の論文がある。
“Humic Substances as a Versatile Intermediary” (筆者和訳:多用途な仲介者としての腐植物質)
この論文は、人や動植物の健康だけではなく、環境の健全性においても、土壌有機物(SOM)の 60% を占める腐植物質(HS)が仲介者としてきちんと働けば、ワンヘルス(全ての健康はひとつ)の実現が可能とした提言である。
図 2 は人、動物、植物の健康に加え、土壌や海(水域)を含めた環境の健康にフミン酸やフルボ酸などの腐植物質がどのように作用しているかを図解したものだが、腐植物質がワンヘルスのコンセプトとして機能し、あらゆるシーンに深く関わっていることがおわかりいただけると思う。
図2 腐植物質フミン酸、フルボ酸の作用
(Humic Substances as a Versatile Intermediaryより改編)
ここまでで、腐植物質が人・動物・植物、そして環境の健全性に深く関わり、ワンヘルスの実現に重要な役割を果たすことをご理解いただけたと思います。さらに詳しい内容や最新の研究成果については、ぜひ書籍にてご確認ください。
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