篤農家見聞録 巨大で高品質なブドウ生産

※ 第 2 章は『農耕と園藝』2022 年 9 月号から 2024 年 6 月号まで
掲載された記事に 10 の新規原稿を加筆・修正しています。

Prologue

 誠文堂新光社発行の季刊誌『農耕と園藝』に編集長から連載記事として「収量・品質アップを狙え! 渡辺和彦の篤農家見聞録」という題名での執筆依頼を受け、2022 年秋号から執筆を始めたものである。題名に自分の名前を自分で入れるほど、私は厚かましくない。編集長から与えられたタイトルである。私も願っていたテーマでの執筆依頼で、即座に「出張旅費はいりません」と発言した。それは私自身が訪問したい農家が脳裏に数件すでにあったためであるが、取材時の助手は付けてくださった。ただ、その原稿を依頼されたとき以前にも、「バイオスティミュラント」特集記事を「栄養素の新知識」の連載中であった最中に二度も執筆させていただき、しかもそのうちの一つ「エタノールを利用した CHO の葉面散布」をより詳しく雑誌に執筆するよういわれ、2020 年冬号に別途掲載させていただいた。その記事を今回第 2 章のトップに入れた。
 編集長にとっても、新連載記事を依頼するきっかけになった内容である。
しかし、連載記事は 2024 年夏号、おおたに農園の大谷武久さんの回で、同誌は休刊となり中断となった。すでに取材していたが、掲載できなかったのが 10 番目の中田幸治さんの記事である。ほかにも(株)ジャットのイチゴ栽培指導で卓越した能力を発揮されていた同社の栽培技術参与 岩男吉昭様の記事が未完成のまま残り、まことに失礼の段、ここに社名と連絡先を記載し、お詫び申し上げます。

株式会社ジャット 〒 542-0081 大阪市中央区南船場 4-2-4 日本生命御堂筋ビル 9F
TEL06 -6121-4300 
ホームページ:https://jaht.co.jp/

エタノールを利用した CHO の葉面散布で巨大で高品質なブドウ生産 長浜憲孜さん  宮川多喜男さん

肥料商店とその客(農家)の熱意による発見

長浜商店の長浜憲孜さん

 写真1  長浜商店の長浜憲孜さん

 本項の主たる肥料については、『農耕と園藝』(2020 年、秋号)の「バイオスティミュラント」特集記事内(56 ページ)で紹介した。それは2014(平成 26)年に特許取得済みの「NCV コール」といわれる肥料で、土壌施用にも葉面散布剤にしても用いられる、エタノールに、植物油、ビタミン類を入れたものだ。
 2020(令和 2)年 7 月 23 日、愛知県で食品スーパーを数店舗所有し、野菜、果物の卸経営をしておられる株式会社サンヨネの代表取締役社長の三浦和雄さんが、友人とお二人でわが家に来られた。そのとき、有限会社長浜商店(愛知県豊橋市)の肥料の話になり、すでに私が長浜商店を知っていることを話すと、「NCV コール」の仲間の肥料に今では「VFコール」といわれる葉面散布剤があるという。エタノールにフミン酸、フルボ酸を加えた肥料で、三浦さんによれば、これら 2 種を混合して使うと、効果が増強されるという。「これらの肥料でブドウやイチゴがすごく大きくなり、しかもおいしくなりますよ。ぜひ長浜商店を営む親子の父上、長浜憲孜さんにお会いになられては? 長浜さんのような方が 100 人おられたら、日本の農業が変わりますよ」と言われた。


長浜さんから紹介されたブドウ農家のもとへ

宮川さんのブドウ園

 写真2  宮川さんのブドウ園

 そこで、2020(令和 2)年 7 月 28 日、筆者は長浜さんを訪ねた(写真1)。長浜さんは、「NCV コール」と「VF コール」2 種を混合して使っている生産者のブドウやメロン、イチゴ、大豆、麦などの写真を種々見せて下さった。なかでも驚いたのは、もともと大きい「ナガノパープル」がさらに巨大化していたことだ。ブドウだけではない。イチゴも今までに見たことがない大きさのものだった。
 いても立ってもいられなくなった私は 2020(令和 2)年 8 月 9 日、長浜さんからの紹介で、長野県のブドウ栽培農家である宮川多喜男さんを訪問した。宮川さんは、約 3ha のブドウ畑と約 0.8ha のリンゴ園を家族7 名、雇用 2 名で経営されていた。宮川さんは「太陽の光は大切で、地面にある程度届くことも大事ですよ」といい、きれいに剪定されたブドウ園にまず案内くださった(写真 2)。出荷は 9 月からで、まだ 2 〜 3 週間後ということであったが、大きく立派なブドウができつつあった。糖度も目の前で測定してくださり、出荷 3 週間前にもかかわらず、19.4度もあった(写真 3 〜 5)。

後継者が育つ農業経営

 宮川さんが、これらの肥料を使用した栽培を始めて 10 年以上になるが、生産したブドウは市場の評判も良く、収入も十分な様子であった。NTT 関連会社に勤められておられた長男の敏一さんも 10 年前に会社勤務を辞め、果樹農家として後を継いでおられた。孫の大輝君も長野県立農業大学校を卒業後、実家で 1 年就農しその後、愛知県の青果市場で 1年間修業を積んだ。そのときに生涯の伴侶となる綾さんと出会って実家に戻り(残念ながらコロナの関係で結婚式は延期)、家業の果樹園を手伝ってくれている。ご両親も喜んでおられた。若者たちが進んで跡を継いでくれるほど、宮川農園の果樹経営は順調に進展している。宮川さんは、これも新しい肥料を開発してくださった長浜さんのおかげだと、感謝されていた。

「男のロマン」、思い切った施肥

宮川農園一家

宮川農園一家 前列左より、宮川多喜男さん、夫人の宮川美佐子さん。
後列左より孫の宮川大輝さんの夫人の綾さん、宮川大輝さん、息子の宮川敏一さん。


 長浜さんによれば、宮川さんは「これは良い」と確信したら、長浜さんの言われた倍以上の回数(例として、ブドウの栽培期間中は月 2 回、年間約 12 回以上、「NCV コール」は 250 倍、「VF コール」は 200 倍希釈の混合液)、そのとき、必要な農薬と一緒に葉面散布されるそうだ。「葉面散布でブドウ果実が大きくなるとは長浜さんは一言も言わなかった」そうである。宮川さんの栽培するブドウが肥大し、糖度も高くなり、コクのある味わいになったのは、長浜さんの新しい肥料効果のせいだけではない。宮川さんは「男のロマン」と言われていたが、葉面散布も長浜さんのアドバイスする 2 倍以上の回数をし、誰もまねのできないほどの肥料代(3haで約 300 万円)も使われ、ついに到達された頂点技術であったのだ。いくら高品質の農産物ができるとはいえ、ここまで肥料を使うことをためらう生産者は多いだろう。しかし、宮川さんはそれを実践しておられるのだ。
 葉面散布でこれらの肥料がなぜこのように効果を発揮するのかを証明した研究を筆者はまだ知らない。今後の研究が日本の農業界に革命を起こすと言ってもいいだろう。これからの研究、そしてその後の普及を強く願う。
 なお、非常に大切なことを書く。宮川さんの肥料代は 3ha で年間約300 万円も使われ誰もまねのできない肥料代である。ただし 10 年前からだが、収入(利益)は 4000 万円である。最近 2024 年栽培面積を増され収入(利益)も多くなっているそうである。

イチゴ
栃木県の農家のイチゴ2
栃木県の農家のイチゴ3

 写真6 「NVCコール」「VFコール」の混合液を多数回、葉面散布している栃木県の農家のイチゴ
横幅の長さは約7cm、縦幅の長さは約8cm。2020年1月15日、撮影:長浜

関連文献情報について

 最後に今後の研究のため、葉面散布についての関連文献を教示しておきたい。
『微量要素と多量要素』山崎傳(博友社、1966)は、総論、多量要素編、微量要素編、対策編の 4 編に分類され、その対策編に、「肥料の葉面散布」(1)多量要素の葉面散布、(2)微量要素の葉面散布、(3)葉面散布の濃度、と三つに分類、8 ページにわたり稲、野菜、果樹での実用レベルでの施用濃度などや薬害防止法などが詳しく執筆されている。しかし、肝心の CHO の葉面散布については一切記述がない。
 葉のどの部分から吸収するかは、『植物栄養学大要』熊沢喜久雄(養賢堂、1974)にエクトデスマータ*1 からとして葉の断面図が表記されている。出典は巻末に記載され、W. Frank. Mechanism of foliar penetration of solutions, Annu. Rev. Plant Pysiol. 1967. 18:281-300 である。40ページもの葉面散布に関する英文総説がある。
 糖類の葉面散布については、大阪大学名誉教授で理学博士でもあった故・堤繁先生が著わした『緑の錬金術』(青巧社、1983)に詳しい。堤先生は東京大学理学部化学科卒業で、生物が好きで生物専攻に入学希望だったが、両親の反対に抗しがたく化学科に入学された。しかし初志忘れがたく、その後、バラ作りに手を染め、そのキャリアは 40 年である。
そして「葉面散布単独栽培法」を確立された。その栽培方法では、肥料+グルコースの散布法が推奨されている。
 長浜さんは、堤先生のご自宅を訪問したことがあり、また、堤先生のお弟子さんが近くに住んでおられるとのことで、堤先生の影響も少しは受けられている。なお、農業試験場レベルでも各地でグルコースの葉面散布試験をされた時代もあったが、大半は失敗している。筆者も株式会社ハイポネックスジャパンの吉田健一氏(現在は退職)にお願いして、ポットに植えた花「グロキシニア」でグルコースの散布試験をしていただいたが、濃度が少し高かったのか、老化がむしろ促進された経験を持つ。新たな研究成果が待ち遠しい。
*1 エクトデスマータ:葉の組織にある気孔、水孔などの器官

葉面散布を行った大豆1
葉面散布を行った大豆2

写真8 「 NCVコール」と「VFコール」の葉面散布を5 〜 6回行った北海道の大豆
通常1鞘に4粒程度の豆数が普通であるが、6粒、場合によっては7粒入っているのが特長。2019年7月、撮影:長浜

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