フミン酸、フルボ酸のメカニズム
堆肥を施用すると作物根が伸びやすい。この事実は、私たち農業研究者はよく実際の作物根の生育状態を観察しているから、確信をもって「堆肥の第一の効果は作物の根を伸ばすことだ」ということができる。しかし、なぜ根が伸びるか、そのメカニズムについて私は全く知らなかった。
私には研究者仲間がいる。代表的な一人は、元全国肥料商連合会会長の上杉登さんである。上杉さんは、数年前に私に紹介してくださった小嶋康詞さんの会社の顧問になっておられ、フミン酸、フルボ酸に関する論文を上杉さんたちは、400 点ほど収集されたそうだ。
ついに私にもわかりやすいフミン酸、フルボ酸が根を伸ばすメカニズムを確認した論文を上杉さんから入手した。さっそく、私の一般社団法人「食と農の健康研究所」で毎月 1 回開催している英語論文精読会で、翻訳でお世話になった西野聡子さんらと取り上げた論文が本章の 11 である。ちょうどその頃、上杉さんの勉強会グループと一緒に、私の家で腐植物質の勉強会をやろうということになった。
フミン酸は根内のオーキシン(Auxin) と結合し、細胞膜にある ATPase を活性化し ATP を ADP に変え、細胞壁側にプロトン(H+)を放出し酸性にする。低 pH 感受性の酵素を活性化し、細胞壁の緩みと根の伸長成長を促進する。電気的勾配も利用し、各栄養素の取り込みも上昇し、根も伸長する。
なによりも、ATP を分解し無機リン(Pi)が放出されるため、前述の三要素試験での無リン酸区でも、堆肥施用区は完全なリン欠乏状態ではないことが理解できた。難問が解決でき、すっきりとしたのは読者も同じと思う。堆肥は根内に無機リンを放出するのだ!

硫黄と塩の効果
この章では必須元素だけど、その役割が何であるかご存じない人も多いS(硫黄)と Cl ( 塩素 ) について説明したい。私の経験では、当時硫黄の公害問題を農業試験場化学部でも力を入れ始めたときに、研究員に新人の浅川富美雪さんが担当になった。ちょうど四日市の煙害で、亜硫酸ガスの害について調べていた。私がラジオアイソトープの研究担当であったため、作物に亜硫酸ガスが接触すると、どのようになるかを調べたいと協力を依頼された。
さっそく 35S ラジオアイソトープでラベルした亜硫酸ガスを、ポット栽培していたトマトにビニールで密封したケースの中で被爆させた。写真 1(160 ページ)の左がそのオートラジオグラムで、亜硫酸ガスの硫黄は葉先に多く存在している。その 7 日後の植物体の 35S の分布図が右図である。明らかに基部の方に転流している。亜硫酸ガスの硫黄も、トマトは葉から吸収し、栄養分として転流され利用されていることがわかった。
その後の 1994 年の土壌学会肥料学会で、京都大学の關谷次郞教授が「ヨーロッパで膨らまないパンが問題になっている。近年のパン小麦は大気汚染がなくなり硫黄不足のためメチオニンが少なく、十分膨らまないパンができてしまっている」事実を講演してくださった。私はまったく知らなく、強く印象に残った。大気汚染での硫化水素も役にたっていたのだ。もちろんそれ以降、硫黄含有肥料を施用するようになり問題は解決している。
次は塩素だ。アメリカのオハイオ州立大学で毎年開催される花卉栽培農家のための大学教職員による講義「OFA 短期研修会」に(株)ハイポネックスジャパンの木下博さんに「土壌肥料の講義もあるから」と誘われ 2 回ほど一緒に行った。講義は花卉農家対象でわかりやすく、私にとってもためになった。驚いたのは「塩は、多くの病害虫防除に効果があることである」(166ページ表 2 参照)と花卉農家に防除のため、塩散布を勧められていたことである。
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