マンガン欠乏症状/三要素試験と堆肥施肥

マンガン欠乏症状

 これは兵庫県でおきた実話である。神戸市西区の軟弱野菜の栽培地域で、シュンギクの葉が黄色くなる、通称「額縁症」が多くの農家で発生した。周辺の圃場整備により、農家の圃場も新しく、彼らの多くは堆肥の重要性もよく知っていて、各自が自分の農地に堆肥置き場を設置していた。近郊には神戸牛の産地があり、牛ふんの入手が簡単だ。生の牛ふん堆肥が野菜に悪影響があることにもよく精通しており、自分たちで熟成堆肥を製作していた。こうした自信のある堆肥を、年間 9 作もできる軟弱野菜の期間中、年に 2 ~3 回は施用していたようだ。圃場整備後 3 年間くらいは順調だったが、その後多くの農家で「額縁症」が蔓延し始めたのである。
 この地域は、地元の大きな近郊農業産地である。試験場でも当然、担当者を指名し、土壌肥料専門家を当てた。担当者は 2 ~ 3 年で交代したが、研究を始めて 7、8 年が経っても原因がわからなかった。ところが、化学分析はできるが食品加工専門の永井耕介さんが担当になった途端、2 ヵ月ほどでMn 欠乏症状と診断し、マンガンの葉面散布で症状の発生が予防できた。彼は土壌肥料担当でないので、専門外の土壌分析結果にこだわらなかった。それがよかったのである。土壌肥料専門家が現地で土壌を採取して職場に持ち帰り、風乾細土にして土壌分析をすると、生土では欠乏していたマンガンを含んだ微生物が死滅し、多く溶出してしまう。長らく原因がつかめなかったのは、こうして得られた値を正規の分析値として扱っていたためであった。第1章 6 で紹介した BFOF 理論の提唱者である、有機農業の小祝先生は生土分析法を採用されている。
 私たち植物栄養学者が尊敬しているマーシュナー博士が、マンガン欠乏の植物はリノール酸が多く、人の健康寿命にはよくないことを提唱されている。マンガン欠乏は堆肥過剰施用で発生する。油の大切さは日本脂質栄養学会の初代会長、奥山治美先生が詳しい。精読ください。

春菊

三要素試験と堆肥施肥

 ほとんどの都道府県の農業試験場は同じだと思われるが、1951(昭和26)年から兵庫県では、稲、麦 2 毛作、堆肥施用有無の三要素試験を継続している。私が旧・兵庫県立農試に採用になったのは 1968(昭和 43)年だから、当時すでに試験開始から 17 年経過していた。本文中の図 1(136 ページ)に見られるように水稲作では各区の生育差は小さいが、図 2(138 ページ)の麦作では無堆肥区の生育が著しく低くなっていた。その理由はなぜか読者の皆さんはおわかりですか。確か新人の私に先輩の研究員がこれは勉強になりますよ、と自分でそのわけを考えるように指導してくださった。
 まず水田の稲では生育差がほとんどないのに、畑作の麦では、ひどい試験区は収量もゼロに近い。回答しよう。水田は連作しても生育は悪化しない。それは水を湛水すると、水田土壌の pH はほぼ中性に保たれるため。ところが畑作では、肥料の専門用語で、生理的酸性肥料という言葉がある。生理的酸性肥料の代表が硫安。アンモニア態チッ素は、畑作では硝化菌の作用で硝酸になる。硫安(硫酸アンモニウム)の硫酸も酸性である。それが、畑作での酸性化の大きな原因だ。
 塩化カリ(KCl)も Kイオンは植物が吸収するが、HCl(塩酸)が残り土壌を酸性化する。畑作では肥料で土壌が酸性化してしまうので、石灰の施用が必須。三要素試験は、そのような非常に大切な事実を初心者に教えてくれるのだ。
 もう一点は堆肥の効果。同じ無リン酸区でも、堆肥の有無によって生育は非常に異なる。その答えは実は第 1 章 10 に記載しているので、楽しみにお読みください。

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