葉面散布の重要性
私が葉面散布の必要性を力説できる大きな理由がある。それはラジオアイソトープを使って種々の肥料成分元素の挙動を、根と葉からの吸収を比較し、実際に実験をしているからである。「ラジオアイソトープとは何ですか」との質問もされるが、高校の化学や物理でも学ぶので調べてください。戦後、やっと日本の大学でもラジオアイソトープの利用研究が始まった。その最先端の研究が京都大学の葛西善三郎教授の研究室で行われていた。その研究室に自分から希望して応募し、大学院修士課程入学試験に合格し入学した。京都大学の学生でも不合格になった試験(事実です)だが、私は丹波篠山市にあった兵庫県立農科大学(現・神戸大学農学部)の 2 年生後期に受験を決意し、猛勉強の末に合格した。そこは伝統のある研究室で、後に 2012(平成 24)年文化勲章を受章した山田康之先生(京都大学名誉教授、奈良先端科学技術大学院大学名誉教授)もまだ若く、葛西研究室でラジオアイソトープを使い、ミネラルの葉面吸収実験をされておられた。
私は兵庫県立農試では、その「非密封ラジオアイソトープ取り扱い主任者」であった。国家試験があり、しかも実験室は年に 1 回立ち入り検査もあり、研究室の維持経費も安くはない。実は私の退職後、ラジオアイソトープを使う研究者もいなかったためすぐに閉鎖されて、現在は兵庫県にはラジオアイソトープ実験室はない。
ラジオアイソトープの実験室は、当時流行の生物工学研究室に所属をしていた。新設の研究所で当初は予算も比較的裕福であったことも、私にはメリットのある研究員生活であった。その生物工学研究所も今はなくなっている。余談だが、私が部長になった元化学部はその後、病虫分野の研究室と合併し大所帯の環境部になったが、その中心でもあった化学部は現在3名の担当者と実験室は残っている。しかし、私が退職した後、「化学部」の名前は組織から消滅し、大切だった三要素試験も今は中断されている。

迅速養分テスト法の開発
この項目は私が兵庫県立農林水産技術総合センター職員として、最も上司から褒められた仕事である。具体的には研究職2等級から1等級に昇級時に上司の故・日下昭二化学部長が人事課に私の功績の説明として、試薬のワンセットと分析サンプル(植物体や土壌)と試験管、蒸留水を少し持って「こんなに簡単に、植物体や土壌中の肥料元素が分析できることを実演して、渡辺和彦君が兵庫県の農業に役立つ研究開発をしてくれたと報告すれば、後はなにもなくてもパスだよ」と笑って言ってくれた。
もちろん本技術は私が退職して 20 年にもなるのに、今でも後輩職員が試薬管理を継続して毎年、普及員研修でも説明されている。インターネットでも調べられるが令和 5 年 2 月、兵庫県農林水産部発行『化学肥料低減指針』には、4 土壌診断に基づく適正な施肥量の把握(3)ウ 迅速養分テスト法による測定 15 ページ、(3)エ 測定結果の診断基準の 21 ページに詳しく記載されている。記載だけでなく毎年1回実習研修会も開催されているそうだ。分析試薬は土壌肥料担当研究員が調合し、空の容器を持って研究室に来ていただければ、配布されるそうだ。
なお 10 年ほど以前になるが、神戸大学大学院農学研究科・農学部 応用機能生物学 植物栄養学、三宅親弘教授の研究室でも学生に迅速養分テスト試薬を作らせ、各種測定をさせておられた。迅速養分テスト法について、学生達に説明してほしいといわれ、講義をさせていただいたこともある。三宅先生もその簡便さに驚かれていた。兵庫県の農家は普及センターに行けば、その場で普及員が分析してくれるようだ。実に手軽にチッ素、リン酸、カリウムなどが分析できるので、兵庫県の農家も幸せと思う。
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