自然と共生できる土壌改良剤小嶋 康詞

2024 年 6 月、本書の取材で渡辺和彦先生とともに、なかた農園の中田さんが育てる水稲とネギの生育状況を見に行った時のこと、田んぼの中でオタマジャクシやドジョウがたくさん泳いているのを発見した。中田さんに尋ねると「HS-2Ⓡプロ」を使うようになってからは、農薬はごく少量で済んでいるという。隣の田んぼを覗くと、チッ素過多の濃い緑の苗が寂し気に立っているだけで、ほかの生物の気配は全くない。
同じような状況は私の自宅からほど近い、見沼たんぼ(埼玉県さいたま市にある大規模緑地空間)の中央を流れる川でもあった。子どもたちと一緒に行った 30 年ほど前にはいた釣り人が、孫たちを連れて20 年後に行ってみると全くいない。浅瀬を見ても何もいない死の川と化してしまっていたのだ。
群馬県にある月夜野ホタルの里では、ホタルを町づくりに活用するため、農家の協力により近隣の田畑で農薬を使わないようにしたところ、ホタルやカエル、トンボ、魚が生息し、これを捕食する鳥やヘビなど多くの生物が集まり、結果として生物多様性につながっているそうだ。もしも農薬を止めたならば、少し減らせたならば、こうした自然のサイクルが復活してゆく。
私は農薬や化学肥料がすべてダメだと言っているわけではない。本来は補助的に使うべきものであって、現代の慣行農法のように農薬と化学肥料ありきでは、菌やウイルスが農薬に対して耐性を持ち、さらに強いものを大量に撒き続けなければならなくなる。こうした状況では土壌劣化が進んでしまうのだ。そうなれば環境や多くの生物へ及ぼす悪影響は計り知れない。
植物の生長には土壌微生物、特に根圏微生物の働きが、土壌の健全性には微生物叢の豊かさが重要だ。しかし、化学肥料や農薬の多用が微生物の多様性を失わせ、病原菌やウイルスが猛攻する要因となるだけではなく、連作障害や病気に対し脆弱な土壌環境を生んでしまうのだ。二次代謝物として、天然の抗生物質やビタミンを産生する微生物にはエサとなる有機物が必要だが、「腐植化プロセス」を経て完熟した堆肥は有機物が豊富だ。また、この本の主題の一つでもある「フミン酸」や「フルボ酸」といった腐植物質が含まれ、微生物活性や土壌の団粒化、物理性の改善に寄与する。なかでもフミン酸は根圏微生物と共同して根の保護にも働くのだ。堆肥は良い土壌に欠かせないミミズなど土壌生物にとっても重要で、微生物と同様に、その代謝物が植物や微生物、土壌の物理性、生物性の向上に役立っている。
堆肥により土壌の物理性、生物性が改善すると、CEC(塩基置換容量)や EC(電気伝導率)など、化学性にとっても良い影響をもたらす。
さらに、堆肥の効果として付け加えたいのが、フミン酸やフルボ酸による pH 緩衝作用である。植物にとって土壌の適正な pH は 6.5 程度とされているが、降水量や化学肥料の施用なども影響し、日本は酸性土が多い傾向にある。フミン酸、フルボ酸がこうした土壌にもたらす効果は言うまでもない。
なお、「根圏微生物と根の関係」と「腸内細菌と腸の関係」はとてもよく似ており、いずれもバランスと多様性が重要になる。したがって腸内でも、細菌数が相対的に減少したり、バランスが崩れたりすれば体内環境の悪化を招くだけではなく、免疫力の低下やさまざまな疾病へのリスクも高まってしまう。こうした理由からも、「腐植化プロセス」を経て作られた天然のフミン酸やフルボ酸が、いかにしてあらゆる生命の生理活性に関わってきたかが、おわかりいただけるのではないかと思う。

オタマジャクシとヤゴとドジョウ
本書の編集も終盤に差し掛かってきた 2024 年 11 月、なかた農園に注文していた新米が届いた。ドジョウやオタマジャクシが泳いでいた田んぼを思い出し、安全な環境で育ったお米はひたすらに美味しく、私は本当に幸せな気分に浸った。
弊社では「HS-2Ⓡプロ」を活用する生産者、研究者の協働、技術情報の共有、研究、普及を目的として、「ヒューミック倶楽部」という情報交換の広場を提供している。
その会員には、なかた農園の中田幸治さん(福島県:ネギ、水稲 第 2 章 10、271 ~ 275 ページ)をはじめ、はしもと農園の橋本文男さん(福島県:キュウリ、水稲 第 2章 3、214 ~ 222 ページ)、落合農園の落合良昭さん(兵庫県:タマネギ、ハクサイなど 第 2 章 5、231 ~ 239 ページ)のほか、全国コンテストでグランプリを受賞したこともある、古賀とまと農園の古賀信一郎さん(佐賀県:トマト、水稲)、島根有機ファームの古野利路さんなど、その道を究め、日本一とも称される篤農家の方が多い。こうした技術力にも長ける篤農家の方たちが、ここ一番の資材としてHS-2Ⓡプロ」を活用してくださっているのだ。
これまで、会員の圃場を何度も訪問し「HS-2Ⓡプロ」の活用法をお聞きしているのだが、どの方も例外なく、植物との会話力のレベルが非常に高いことに驚かされる。毎日圃場に足を運び、もちろん天気を読みながら観察(会話)を欠かさず、植物たちのどんな小さな囁きさえも聞き逃さずに対応されておられる。美味しいタマネギの産地として有名な淡路島の中でも格段で、最も美味しいタマネギを作ると評判の落合農園を訪ねた際も、落合さんと植物との会話力の素晴らしさを目の当たりにした。この時の様子を最後に紹介させていただきたい。
淡路島のタマネギ生産者を訪問
2023 年 11 月 11 日、羽田空港から早朝便にて徳島へと向かい、9時半に落合農園に到着した。落合さんの笑顔に迎えられながらタマネギ畑に行くと、健苗がずらりと並んでいる。落合さんはタマネギ作りに絶対の自信を持っていたそうだが、「数年前、渡辺先生から「HS-2Ⓡプロ」を紹介されて、試しに育苗で使ってからはもう、手放せなくなりました。苗の状態の違いには驚きです」とおっしゃる。これまでさまざまなメーカーから、多くのバイオスティミュラント資材を紹介されて試してみたが、大半は全く効果がみられなかったという。しかし、「HS-2Ⓡプロ』を 2000 ~ 3000 倍に希釈し、苗をどぶ漬けしてから定植すると活着が良く、生長も極めて良い。降雨でも倒れない強い苗ができるようになったそうだ。(写真 1)

植物がストレスを感じる主な場面として、①発芽する育苗時、②掘り起こされて新たな環境に植えられる定植時、③温暖化の影響で適正温度を超える高温時、の 3 つが挙げられる。こうした場面で植物に刺激を与えるHS-2Ⓡプロ」は欠かすことができない、と落合さんはいう。また「ハニー・フレッシュ」との混用により、植物自体の免疫力がアップし、耐病性も増したとのこと。タマネギに限らず、ハクサイにも「HS-2Ⓡプロ」を使うようになったそうだが、落合さんを訪ねたその日は、あいにくの降雹にも関わらず元気に育っていたのが印象的だった。
なお、落合さんは植物自体の刺激剤としてだけではなく、土壌微生物の活性、土壌有機物の分解促進を目的として、「HS-2Ⓡプロ」を使い土壌灌注のチャレンジを始められたそうなので、この結果にも期待するところである。
帰り道、徳島空港近くにある人気の道の駅「くるくるなると」では農産物直売コーナーに、「また食べたくなる玉葱」として地元名産のサツマイモコーナーにも負けじと、落合農園のタマネギが展示販売されていたので、思わず購入してしまった。



写真1 「見てください! 雨が降っても倒れない強い苗ができるようになりました」と語る落合さん
落合さんのタマネギは三要素肥料を基本とし、ベースとなるものは有機肥料しか使わない。栽培し ているカネコ種苗(株)の品種は、「落合さんが手がけると一層おいしくなる」とまで言われる。
46 億年前に誕生した地球の歴史を今日まで、24 時間に集約すると、人が現れる人新世時代が始まるのは 24 時の僅か 2 秒前に相当すると例えられている。それまでに恐竜の絶滅を含めると 5 回にわたる生命の大量絶滅があり、人新世に入ってからのわずか 2 秒の間でさえ、動物種の絶滅はすでに半数にのぼっている。しかも、過去 5 回の絶滅のスピードよりも遥かに速く種が滅んで行く。地球上の生命はもはや 6度目の危機に突入したと主張する科学者もいるほどだ。
しかし、これまでと比べ決定的に異なる点がある。それはこの 6 度目の危機はたった一つの種である「人類」の行動の結果によってもたらされた大量絶滅であるということだ。
なぜ今「生物多様性」が叫ばれているのだろうか。それは簡単にいえば、他の動植物が住めない地球環境には当然の如く人も住めなくなるからにほかならない。ワンヘルスの概念で述べられるように、微生物をはじめ、すべての生命と環境は相互的に関りを持ちながら存在しているからなのだ。
そのワンヘルスを紡ぎ続けてきた、土壌有機物の 60% を占める腐植物質(フミン酸、フルボ酸)でさえも土壌中から猛烈な勢いで失われ続けている。自然(の循環)から学び、人の叡智をもって「次代の子供たちによりよい環境を引き継ぐ」ために、あらゆる活動が求められている。私たちは、自然の循環だけでは到底足りなくなってしまったフミン酸、フルボ酸を活用しながら、ネイチャーポジティブの実装に取り組んで行きたい。
小嶋康詞

